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樹木を守りたいと思うようになった理由。
子供の頃、『野生の王国』というテレビ番組があって毎回ワクワクしながら観ていました。ドキュメンタリーの教養番組なのですが、アフリカのレンジャーたちが野生動物を護るエピソードなどを観ては、大人になったら自分もこんなふうに働きたいなぁ...と思っていました。そしていつしか、地球上のすべての生き物を大切に考えるようになっていったのです。
あるきっかけがあり、植物と動物と自然と人と文化文明の共存共栄のために何ができるのだろうと考えました。林業の世界では木の畑だと実感し、重機で作った道に雨でドロドロの土が流れて己の思念とは違うと感じ、造園の仕事では人の都合で傷付けられる樹木を見て己の思念とは違うと感じ、公園管理、公共施設の樹木の管理では管理者の指示で樹木を切り刻む日々に心を痛めました。樹に関するいくつかの仕事に携わりながら、いつも私の胸には樹木もひとつの命であり、その命を育てて護りたい。樹と人が上手に共存できる世界を作りたいという想いが日に日に強くなっていきました。
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ずっと探し求めていた「アーボリスト」の世界。
実は、樹に関わる仕事を始めた当初も、自分の理想と現実のギャップに悩んでいました。自分は木や森を護るりたいのに、林業は木を伐採するのが仕事です。公園や公共施設の樹木を管理する仕事でも、見た目や便利さを優先して木を切るよう依頼されることも少なくありませんでした。これでは木や森を護ることにならないじゃないかと葛藤を抱えていました。
ちょうどその頃、プライベートでは、ツリークライミングに夢中になっていました。きっと、樹木に触れていたくてしかたなかったのでしょう。ある時、ツリークライミングの仲間が「アーボリスト」という職業について教えてくれたんです。世界では、アーボリストと呼ばれる人たちが活躍していて、世界中の樹木はアーボリストたちによって護られていると。調べてみると、アーボリストたちの活動は樹と人が共存するための平和な思想、アーボリカルチャーにもとづいていることがわかりました。それこそ自分が探し求めていた世界でした! 迷わずアーボリストの世界に飛び込み、知識を得て、経験を積みました。そしてアーボリストの考えが自分の活動の礎となったのです。
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1本の樹木の前に立った時、たくさん命が見えてくる。
「樹」は地球上に住む隣人です。地球上には動物から菌までさまざまな生物が存在していますが、中でも植物は、私たち人間にとって最も身近な存在だと感じています。
ご存知の通り、樹木は二酸化炭素を吸収し、酸素を排出して地球上の空気を調整してくれていますよね。花を咲かせて私たちの心を喜ばせてくれたりもします。夏は樹木のそばにいると涼しいように、暑さから生き物を守ってくれたりもするんです。そしてさらに虫や鳥や小動物など、動物たちの家でもあります。
ですから、私が1本の樹木の前に立った時、その樹に関わるあらゆる命が見えてきます。周りの植物や、近くに住む人の生活、生育している土壌、土の中にいる微生物のことなど、これら生態系をトータルに考えて、樹木を診断、治療しています。治療にいたっても、樹木にとって最もダメージの少ない優しい方法を選びたいと心がけています。伐採するという選択は極力避けたい。なぜなら1本の樹木を切るということは、生物たちの生活を奪うことにもなるからです。それよりも樹木を育てていきたい。アーボリストとしての発想を大切にしながら、樹とともに、人を含めあらゆる生き物の暮らしを守りたいと考えています。
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木と人が仲良く暮すために、私たちが大切にしたい心がけ。
これからも木に関わる活動を通して、木と人が仲良く暮らせる世界を実現したいと考えています。このことに共感してくださる方も多いと思いますが、皆さんにはぜひ、樹木について正しい知識を手に入れ、その上で判断・選択していただきたいです。
いつもお話しさせていただいているのが、「針葉樹と広葉樹のお話」です。
みなさんは針葉樹と広葉樹ではどちらの歴史が古いと思いますか? どちらも恐竜時代に起源をたどりますが、イチョウや松などの針葉樹はウルトラサウルスの時代から、桜やいちごなどの広葉樹はトリケラトプスやティラノザウルスの時代から生育していたと言われます。この年差およそ1億年。長い年月の間に植物は裸子植物から被子植物へ大きく進化しました。子孫を多く残すために実を付けるまでの時間を大幅に短縮したのです。松が成熟して種子のぼっくりになるまで2年かかるのに対し、イチゴやさくらんぼは実ができるまでたったの3~4ヶ月です。
このように誕生した時代が異なると、樹木の性質も変わり、適した環境や手入れ法も違います。樹木の過去をよく知ると、きっと人の未来は明るいものになるでしょう。木ともっと仲良くなることができ、私たちの生活を根本から深く守ってくれるはずです。